発展途上国における脱工業化と第三次産業化

このセクションでは、後の議論を経験的な文脈で設定するために、発展途上国における経済発展と構造転換(ST)の経験則のスケッチが議論される。 STの概念化は、より高い生産性の活動へのシフトを中心に組み立てられた3つの明確な次元を持っていると言うことができます。 それらは、セクター別、ファクトラル別、統合的の3つである。 第一の次元、すなわちSTのセクター的側面は、より高い生産性に向けたセクター間およびセクター内の活動の再配置に関わるものである。 第二の次元は、STのファクトラルな側面であり、生産要素の高生産性活動へのシフトという点で、経済成長の構成要素やドライバーに関わるものである。 第三は、STの統合的側面である。 これは、グローバル経済の観点からの統合の程度と、貿易赤字や負債(例えば、利益還流や債務返済)を伴う資本流入の形態から貿易黒字への移行を意味する。

Timmer, de Vries, and de Vries(2015)が開発したGroningen Growth and Development Centre(GGDC)10-Sector Database(version 2014)は、1950年代以降の33の途上国を対象とした10の経済部門の付加価値、雇用、輸出に関する長期的で比較ができるデータセットである。 GGDC 10-Sector Databaseは、アフリカで11カ国、アジアで11カ国、ラテンアメリカで9カ国、中東・北アフリカで2カ国を対象としている。 したがって、GGDC 10-Sector Databaseは、途上国における経年的なSTを検討するために用いることができる1

さらに、GGDC 10-Sector Databaseの特定の限界については、Diao、McMillan、 Rodrik、およびKennedy (2017, pp. 4-6) が以下の点に着目している。 (i)データは形式・非形式にかかわらずすべての雇用を広く含むが、付加価値データがどの程度そうであるかは、国の情報源の質に依存する(Timmer et al. 2015)、(ii)特に貧困国やアフリカからのデータの質は疑問視されているが、Gollin(2014)が国民経済計算データと消費の部門別測定値の間に高い相関を示したことは心強いし、GGDCデータセットのアフリカ諸国は最も強力な国家統計局を持っている国だと指摘する、(iii)労働投入量の測定が時間単位ではなく部門内の従業員数であること、(iv)労働投入量の測定が部門内の従業員数であること、などである。 しかし、Duarte and Restuccia(2010)は、先進国・途上国29カ国において労働時間と雇用シェアの間に相関があることを指摘している。

ここではデータを用いて、1960年代以降の途上国のSTを大まかに把握し、2000年頃からの途上国の一部における脱工業化・第三次産業化の特定という観点から、STの新しいモードの特定(概念の証明)を行う。 図3.1~3.6は、発展途上国におけるSTが、セクター別ST、ファクトラルST、統合的STを順番に網羅している。

Fig. 3.1

GDP and employment shares by region, 1960-現在.

Source Timmer et al.

まず、セクター別STであるが、GDP、雇用、輸出のセクター別配分の観点から、STの程度と軌道に関心を持つ。 このグラフをどう見るかは、製造業がサービス業に対して生産性や雇用創出力において優遇されているという前提に依存する(後述)。 図3.1は、一人当たりGDPに対するGDPと雇用の部門別構成を示している(また、付加価値曲線と雇用曲線の位置によって、地域生産の相対的な労働または資本集約度を評価することもできる:雇用曲線が付加価値曲線より上にあれば、その部門と地域の生産は相対的により資本集約的である)

よく知られているように、農業部門のGDPと雇用に対する割合はすべての地域が低下しており、ラテンアメリカでは非常に低い水準にとどまっている。 東アジアでは、この間、GDPや雇用に占める農業の割合が他の地域に比べて低下していることが顕著である。 東アジアのGDPに占める製造業の割合の上昇は特に顕著であるが、雇用の割合についてはそうでもない。 このことは、他の地域と比較して資本集約度が高く、その結果、労働生産性主導ではなく資本蓄積主導の成長になっていることを示唆している。 東アジアのサービス業シェアも、この間、大きく上昇している。 図 3.1 の各地域の製造業シェアは、途上国が一人当たり所得で先進国よりもずっと早い 時点で雇用と付加価値のシェアで「製造業のピーク」に達しているという「早期脱工業化」 (UNCTAD, 2003 の用語で、他の多くの人々も使っている)と矛盾しない2 。 この概念は、製造業が「特に高いレベルの生産性や一人当たり平均所得を達成する前に、その成長の可能性を使い果たす」経験を指す(Kaldor 1978 , p.102)。 製造業のシェアとは対照的に、GDPや雇用に占めるサービスのシェアは全般的に上昇傾向にあり、特に南アジアではその傾向が顕著である(ただし、この推定では南アジアはインドのみによって代表されている)3

脱工業化および第三次産業化は、成長のドライバーとしての製造業の重要性やそれ以外についての疑問を提起する。 つまり、Kaldorが概説したように、製造業は特別な存在なのだろうか。 図3.2は、地域別の成長要因をセクター別に推計したものである。 これらの推計は、Anand, Cheng, Rehman, and Zhang(2014)の手法に基づき、成長の部門別(および次に述べる要因別)分解を示したものである。 成長率の変化の総和は 100%に等しい。 図3.2から、東アジアの成長は、時代とともに製造業への移行と農業からの離脱というセクター間の動きによってもたらされてきたことがわかる。 非製造業とサービスの貢献度は、この間あまり変化していない。 これに対し、他のすべての地域では、サービスが成長への貢献度がはるかに高い。

図3.2

セクター別の成長分解、地域別、1960年~現在(成長率の変化=100)

Source Timmer et al.に基づく筆者の計算

では生産要素別の成長分解の推定を行っている。 また、図3.4は労働生産性の推移を示したものである。 図3.3を見ると、東アジアでは資本蓄積(物的資本ストック)が大きな役割を果たしており、その役割は時間とともに増大していることから、成長の資本集約度が高まっていることがわかる。 当初は労働投入や人的資本ストックと大きく混合していたが、時間の経過とともにそれが減少し、全要素生産性(TFP)が成長においてより大きな役割を果たすようになった。

つまり、東アジアでは全期間を通じて資本蓄積が大きな役割を果たし、1980年代半ば以降、労働と人的資本が徐々にTFPに置き換わっていったのである。 これに対し、他の地域では資本蓄積は相対的に成長に対する重要度が低い。 南アジアでは、時間の経過とともに資本蓄積の重要性が高まるが、サハラ以南のアフリカでは、その重要性は低くなる。 ここで興味深いのは、労働投入量と生産性のどちらか一方に偏っているように見える問題である。 成長は、物理的資本+労働吸収主導型か、資本+生産性主導型かのどちらかである。 つまり、TFP が上昇すると労働投入量のシェアは縮小する傾向にあり、その逆も然りである4。

図3.3

要因別成長率分解、地域別、1970-現在(成長率の変化=100)

Source Timmer et al.

図3.4

労働生産性と1人当たりGDP、地域別、1960-現在(1人当たりGDP)

TIMmer et al.

Source Timmer et al.

Fig. 3.5

Composition of exports by regions, 1960-present.

Source Timmer et al.

図 3.4 では部門別のこの間の労働生産性を見ている。 農業から製造業へのセクター間シフトを考えると、東アジアの製造業で労働生産性が大きく上昇していることは驚くには当たらない。 しかし、他の部門の労働生産性の上昇も大きく、この間、生産性の伸びが小さいか、あるいは低下している他の地域とは対照的である5

生産要素(特に労働)の面では、人口動態の変化が重要である。 国連の『世界人口展望』(中位版)によれば、従属人口比(非労働年齢人口/労働年齢人口)、総人口に占める労働年齢人口(15~64歳)の割合、労働年齢人口の絶対変化(数百万人)が推定されている。 その結果、従属人口比率はすべての地域で低下し、労働年齢人口はすべての地域でピークに達しているが、サブサハラ・アフリカの場合は両者とも例外であることがわかった。 サハラ以南のアフリカでは、従属比率のカーブがやや遅れており、2030-2050年には他のすべての地域で従属比率のカーブの谷を経験することになる。 一方、東アジア・太平洋地域やラテンアメリカ・カリブ海地域は、サハラ以南のアフリカがピークを迎えているため、労働力の縮小に直面する。

最後に統合ST:図表3-5、3-6に輸出の構成と貿易収支の推移を示した。 この間、東アジアの輸出は劇的な経年変化を示している。 農業原材料輸出と食料品輸出のシェアが大きく低下し、製造業輸出のシェアとハイテク輸出のシェアが非常に急速に上昇している。 しかし、製造業輸出のシェアが頭打ちになっていること、ハイテク輸出のシェアのピークとその後の下落は、この地域の経済発展におけるこれらの輸出の重要性を考えると、若干の警戒心を抱かせるものである。 この傾向は、脱工業化パターンと一致している。 驚くべきことに、経済発展にもかかわらず、輸入シェアを見ると、東アジアは依然として製造業の輸入シェアが高いが、これはピーク時の80%から60%程度に低下している。 これは、製造業の輸出が、それに応じて輸入比率が高いという現象と関係がある。 貿易収支全体を見渡すと、ほぼ全期間にわたって黒字であるのは東アジアのみである。 ラテンアメリカとサハラ砂漠以南のアフリカは黒字から赤字へと変化し、南アジアは期間中一貫して貿易赤字であった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。